「洗える着物」着物は自宅で洗濯できる?着物を自宅で洗う場合の素材の見分け方や失敗しないポイントとは~着物ケアシリーズ8〜
着物を汚してしまった時や、衣替え前のお手入れでは、着物をクリーニングに出すかどうか、悩む人も多いのではないでしょうか。
着物の主な素材である「正絹」は扱いが難しく、自宅での洗濯ができません。
しかし、着物の中には自分で洗濯できる素材もあります。
また、最近では「洗える絹」など、自宅でのお手入れを前提にした、新しい着物も増えています。
今回は、自宅で洗える着物や洗濯方法、失敗しないポイントについてまとめました。
自宅で「洗える着物」と「洗えない着物」の区別は素材

まず最初に、自宅で洗える着物と、洗えない着物について確認しましょう。
着物を自宅で洗う判断として「素材」が最重要になります。
代表的な素材としては絹糸100%の「正絹(しょうけん)」、ワタの種子から取れる「木綿(もめん)」、苧麻や大麻から取れる「麻」、羊毛から取れる「ウール」、ポリエステルなどの「化学繊維(通称:化繊)」があります。
「正絹」以外の素材は、それぞれの素材に注意点はありますが、基本的には自宅で洗うことができます。
ここでは「洗える着物」と「洗えない着物」、その特徴と注意点をまとめました。
なぜ正絹は自宅で洗えないのか

正絹が自宅で洗えないのは「縮む」、そして「変色する」という2つの大きな理由があります。
糸に撚り(糸がねじられて織られている生地)がかかっているものは、激しく縮みます。
撚りがかかっている代表的な織物は「お召」や「紬」、そして「ちりめん」などが挙げられます。
また撚りがかかっていない「平織り」で織られた生地は縮みにくいのですが、縫い糸の縮みにより引きつったりするのでオススメしません。
代表的な平織りには「大島紬」や「銘仙」などが挙げられます。


また「平織り」であっても、袷など裏地のある着物の場合、裏地の伸縮率も違うので、結果として「よれよれ」になります。
更に、正絹を水に濡らすと変色してシミになったり、色落ちしたりすることもあります。
正絹は、着物のプロである「悉皆師(しつかいし)」さんに相談したり、着物専門のクリーニング店で洗ってもらいましょう。
洗える着物「木綿・麻」の注意点

木綿や麻の着物は「洗える着物」です。
一般的に木綿や麻は、水にぬれても縮まないよう「水通し」という工程を経てから、着物に仕立てられます。
あらかじめ水に濡らし、縮めておくことで、その後のお手入れで丈が変わらないようにしているのです。

ただし水通しをしていない着物は、木綿や麻でも縮みます。
まずは端切れを濡らしてみて、どの程度縮むか確認をしてください。
また、リサイクル着物でも稀に見かけるのが、胴裏や八掛などの裏地が正絹の場合があります。
表地が洗える素材、裏地が正絹だった場合、裏地が大きく縮み、裏地に引きつられているようにゴワゴワした感じになります。
麻の着物は夏物なので裏地を付けませんが、木綿の着物は裏地のあるタイプが多いです。
こういった箇所も注意をしておきましょう。
洗える着物「絞り」や「刺繍」の注意点

洗える着物の代表格でもあるポリエステルなどの化学繊維でも、稀に刺繍などの細かな技法が用いられたものがあります。
特に超絶技巧と呼ばれる中国三大刺繍「蘇州刺繍」などが施されていると、糸を切ってしまったり、引きつってしまったりします。
こういったものは「手洗い」で優しく気を付けながら洗います。

木綿の絞り浴衣で有名な「有松鳴海絞り」などは、洗濯後にシボが戻るので縮んだように感じます。
かといって、洗濯後にアイロンをきつく当ててしまい、シボが平らになることもあります。
こういった絞り浴衣などの場合は生乾きの状態で軽くアイロンを当て、重たい物などを上に置いておくというのが一般的です。
詳しくは後ほどの項目で触れます。
洗える着物「藍染」などの注意点

木綿で有名な「阿波しじら織」などの藍染も色落ちの注意が必要です。
リサイクル着物ショップでも反物などの状態でも木綿はよく見かけます。
反物の状態だと一番最初に「水通し」をするのですが、その時に大体「アク(灰汁)」が出たり「色落ち」が起こります。
色落ちは大体してしまうのですが、長時間、洗濯洗剤などに漬けておくと、かなり色落ちをしてしまうので注意が必要です。
「藍染」など染料で染められているものは、基本的には短時間でサッと洗うのが一般的です。
こちらも詳しくは後ほどの項目で触れます。
素材の判断は生地を燃やしてみる

自宅で「洗える着物」なのか「洗えない着物」なのかの判断を下す最重要項目は「素材」です。
リサイクル着物や、いただきものの着物には「品質表示」や「証紙」がついていないものが多く、素材の判断に困ります。
私たちは数万点の着物を触ってきていますが、それでも判断に困ることもあります。
正絹といっても様々な種類があります。
「綸子」や「緞子」などは光沢がありツルツルした肌触り、「真綿紬」などは木綿のような肌触り、「博多織」など平織りのものはサラッとした肌触りなど、非常に幅が広いです。
更には、正絹にポリエステルなどの化学繊維を混ぜた複合素材もあり、素材の判断は極めて難しいです。
こういった場合は、販売元の着物屋さんや、近くの着物店、着物のアフターケアのプロ「悉皆屋(しつかいや)」さんに相談されるのが良いでしょう。教えてもらえる場合があります。
またご自身で判断する場合はハギレなどを燃やすという手段があります。
ポリエステルは溶けて塊になる
ポリエステルなどの化学繊維は石油や天然ガスから作られています。
ポリエステルを燃やすと液体状になりながら黒煙を出し、最後には塊になります。
ハギレなどの生地を燃やした時、この塊が出来ればポリエステルなどの化学繊維であると判断ができます。
正絹とポリエステルの混合素材の時もありますが、含量率により燃やし終えた時の形態が変わるので、概ねの判断基準としておいてください。
天然繊維はスミになる
正絹、木綿、麻、ウールなどの素材は、ポリエステルなどの化学繊維と違い、動物性や植物性の天然繊維です。
天然繊維は化学繊維と違い、燃やすと塊にならず、スミになりボロボロと崩れていきます。
問題点としては「洗える素材」と「洗えない素材」の両方ともがスミになってしまうという点です。
顕微鏡などで見ると繊維の形状で判断できますが、現実的ではないですね。
自宅で方法としては「燃やす前の触り心地」、「燃やした後の臭いと色」があります。
以下、表にまとめたので参考にしてください。
生地 | 炎に近づける | 炎から離す | 臭い | 灰の状態 |
---|---|---|---|---|
木綿 麻 |
速やかに着火する | 灰になりながら燃え進む | 紙の燃える臭い | 小さく柔らかく灰色 |
ウール | 緩やかに着火する | 縮みながら燃え進む | 毛の燃える臭い | 膨れて脆く黒色 |
正絹 | 緩やかに着火する | 縮みながら燃え進む | 毛の燃える臭い | 膨れて脆く黒色 |
燃え方と臭い、スミの色は、正絹とウールは非常に似ています。
正絹とウールの違いは燃やす前の生地の触り心地で判断してください。ウールは正絹と比べると、硬くてゴワゴワしています。
着物を自宅で洗う「手洗い」と「洗濯機」コツと手順と必要なもの

自宅で着物を洗うには、「手洗い」と「洗濯機」の2つがあります。
手洗いのほうが丁寧で着物も傷みにくくなりますが、洗濯機を使うと手軽で、汚れもよりしっかり落ちます。
着物の用途や使用頻度にあわせて使い分けましょう。
また、着物を洗うときのコツと手順、必要な物をまとめましたので、見ていきましょう。
着物を自宅で洗う場合に必要なもの
洋服を洗濯する場合は、洗濯機と干す為のハンガー、物干し竿、洗濯バサミぐらいですが、着物を洗濯する場合は、もう少し準備が必要です。
100均などでも簡単に手に入るものばかりなので、是非、チャレンジしてくださいね。
オシャレ着洗いなどの「中性洗剤」
着物を洗濯する場合は必ず中性洗剤を使うようにします。オシャレ着洗いなど、生地に優しい洗剤を使うと更に良しです。
漂白剤や洗浄力の強い洗濯洗剤を使うと「色落ち」や「ゴワつき」の原因にもなります。
洗濯機で洗う場合は「洗濯ネット」
洗濯機を使う場合は必ず「洗濯ネット」を準備しておいてください。
また、必ず着物を畳んでから入れるようにしてください。
畳み方は袖の長さで畳む四つ折り程度が良いでしょう。
洗濯ネットの大きさとしては、上記の状態が収まる程度が良いです。あまり大きすぎると洗っている過程でグチャグチャになり、後で苦労します。
手洗いする場合は「洗濯桶」
着物を「手洗い」する場合は、着物が入る大きめの洗濯桶を準備しておいてください。
短時間の漬け置き、すすぎなどもするので、それらを考慮した大きさが良いです。
桶を準備すると使わない時に邪魔ですよね。
そういった場合は、お風呂場の湯舟を使うという技もあります。
湯舟を使う場合は、お風呂場にありがちなカビなどが付着しないよう、しっかりと事前に洗っておき、お風呂場洗剤など強い洗剤が残らないよう、しっかりと洗っておいてください。
長い目の棒
着物は両袖を開けた状態で干すので、長い目の棒が必要になります。
また、着物は身丈が長く高い場所に干す必要があります。
物干し竿でも良いのですが、高い場所に干すとなると、重たく干しにくいので、100均などで売っている「つっぱり棒」がオススメです。
着物用のハンガー(両袖を開けるタイプ)でも大丈夫です。
棒をひっかける「S字フック」
高い場所にひっかける為に「S字フック」のような物を準備しておくと、着物を干しやすいです。
つっぱり棒などで部屋や通路の両壁で押さえるのもありなのですが、水分を含んだ着物は非常に重たいので、落下してくる危険性もあります。
できれば、しっかりと固定できるような「S字フック」がオススメです。
脱水用の「タオル」
脱水は優しくするのが基本ですので、乾いたタオルなどに挟み、ポンポン叩きながら脱水をします。
着物を自宅で「手洗い」するコツと手順
着物を手洗いするときには、おしゃれ着洗い用の洗剤を使用します。
特に汚れやすい「衿」「裾」「袖口」などは部分洗いしましょう。強く擦らず、優しく丁寧に扱うのがコツです。
掛け衿などは、ファンデーションなど化粧品が付着しやすく、汚れやすい箇所ですが、優しくポンポン叩くようにします。
1.優しく洗う
洗濯桶などに、畳んだ状態の着物がつかるくらいの水をため、洗剤を溶かし、優しく洗います。
2.すすぐ
洗い終わると水を入れ換え、すすぎます。この時も強くゴシゴシするのではなく、着物を畳んだ状態で、優しく押すような感じですすいでいきます。
洗剤の泡が出なくなるくらいが目安で、水を3回〜4回程度入れ換えます。
3.脱水する
すすぎ終えると脱水をします。
この時も、着物を強く絞ったりするのではなく、軽くポンポン叩いて水を落とし、更に大きめのタオルにくるんで、優しく脱水をします。
洗濯後の「乾燥」と「収納」については次項で述べます。
着物を自宅で「洗濯機」で洗うコツと手順
木綿や麻は丈夫とはいえ、着物はデリケートな衣類です。
着物を洗濯機を使う場合は、洗いと脱水の時間を、できる限り短くし、着物に負担を少なくするようにしましょう。
1.ネットに入れる
着物を洗濯機で洗うときは、必ずネットを使用してください。
たたんで洋服用の洗濯ネットに入れるか、着物用のネットを使います。
着物用のネットの場合、本だたみにした着物はくるくると巻き込んでネットの中にしまいます。
GoogleやYahooなどで「着物 洗濯用ネット」で検索すると沢山の商品が出てきます。
2.洗う
着物を洗濯機で洗う場合は必ず中性洗剤を使います。前の項目でも触れましたが「色落ち」などを防ぐためです。
「手洗いモード」や「おしゃれ着洗い」などの、時間が短めの設定を使います。
3.脱水する
脱水も洗いと同様に短い目にします。通常の洋服の脱水時間の半分ぐらいが目安です。
脱水をしすぎると、大きく縮んだり、生地が固くなるなど様々な問題がでてきます。
脱水後、少し水が切りきれてない場合は、大きめのタオルなどにくるんで、軽くポンポン叩いて水をおとします。
洗濯後の「乾燥」と「収納」については次項で述べます。
着物を自宅で洗った後の3つのポイント
着物を自宅で洗う場合「手洗いの」場合も「洗濯機」を使った場合も、洗濯したあとのケアが大切です。
ここでは洗濯のあと「乾燥・シワのばし・収納」特に気を付けたい3つのポイントについて見ていきましょう。
1.しっかりと乾かす

洗濯の後、しっかりと乾かさないと、そのままカビ発生の原因にもなります。
着物を干す場合は「直射日光に当てない」そして「風通しの良い場所に干す」という2点がポイントになります。
紫外線を含む直射日光に当ててしまうと「色あせ(ヤケ)」が発生します。
屋内でも紫外線を発生させる「蛍光灯」の下もアウトです。紫外線を発生させないLEDライトは大丈夫です。
また、生乾きの状態になると、カビなどの雑菌が発生しやすくなるので、風通しの良い場所で乾かすようにしましょう。
木綿や麻、ポリエステルは比較的乾きやすい素材です。
きちんと乾くまで、それほど時間はかかりませんので、洋服の洗濯と同じように、乾き具合を確認してから取り込みましょう。
2.必要であればアイロンがけを

洗濯ができる着物の素材は、アイロンがけも可能です。
洗濯でシワになってしまったら、アイロンをかけましょう。
適切なアイロンの温度は、素材によって違います。
また、直接アイロンをあてるとテカりの原因になることも。
着物にアイロンをかける場合は「適切な温度」と「あて布」がポイントとなります。
「たとう紙」に包んで収納する

乾燥後に着物を保管する際は、たとう紙で包んで収納しましょう。
たとう紙は湿気を吸収し、カビや虫食いを防ぐ効果、そしてシワや型崩れを防ぐこともできます。
着物は1枚ずつたとう紙に包み、なるべくたくさん重ねないようにしてしまうのが基本です。
引き出しの上部に数センチ隙間ができる程度の余裕を残しておくと空気の循環が良くなります。
たとう紙は紙でできていますので、そのままにしておくと湿気を吸ってカビの原因になります。
たとう紙は年に数回、虫干しのタイミングにあわせて、新しいものに取り換えましょう。
以下のコラムも参考にしてもらえればと思います。
きちんとお手入れをして「次世代へ」と受け継ぐ

着物は大切に手入れをすれば、世代を越えて受け継ぐことができる、非常にサステナビリティの高い衣料です。
しかし、お手入れの方法は時代によって変わります。
以前は専門家しかできなかった着物の洗濯も、現代では自分でできるものが増えてきました。
自宅でお手入れできる素材の着物は、ぜひ自分でお手入れしてみてください。
リサイクルで手に入れた着物も、代々受け継がれていく着物も、きれいに洗濯することでいつまでも気持ちよく着続けることができますよ。