訪問着の素材と格とは?紬やポリエステルなど、正絹以外のTPOについて
訪問着は、「やわらかもの」と呼ばれる正絹のものが一般的です。しかし最近では、紬などの「かたもの」やポリエステルなど、さまざまな素材でできた訪問着が流通しています。
着物の格は柄で決まりますが、特に正式な場で着用される訪問着では、正絹以外はふさわしくないと考える人もいるようです。
基本的には同席される方や主催される方の考え方にあわせるのが無難ですが、ある程度自由に装いを選べる場面では正絹でなくとも大丈夫です。
今回は、素材の違う訪問着のTPOや着こなしについてお伝えします。
目次
着物の素材と格について
着物の格はまず柄のつけ方で決まり、次に素材で区別します。基本的には絹のものが格が高く、麻や木綿などは普段着です。
ポリエステルは比較的新しい素材で、格は低いとされることもありますが、良質なものは絹と見分けがつかないこともあります。
まずはそれぞれの素材の違いを、簡単に見ていきましょう。
絹では正絹が最も格が高い
古くから着物の原料として親しまれてきた素材です。
つややかな正絹のほか、紬や御召などのかたものも絹からつくられます。
格としては染めの正絹がもっとも高く、織りの着物では御召、紬と続きます。
訪問着では正絹が多く使われますが、お洒落着としての紬の訪問着も人気があるようです。
麻・木綿・ウールは訪問着の素材として原則使わない
麻や木綿、ウールは普段着として生活の中で使われた素材です。シルクウールなど、絹糸とともに織られた製品もあります。
単衣として仕立てられることが多い素材ですが、そのまま袷の季節にも着用されます。主に麻は夏、ウールは冬に活躍する素材です。
これらの素材は、基本的には訪問着として扱われることはありません。
ポリエステルはお手入れが楽
以前は静電気が立ちやすく、ざらざらとした手触りでしたが、最近のものは絹に劣らぬ光沢と着心地を楽しめます。
なかでも東レのシルックはなめらかな着心地で、訪問着などに仕立てても遜色がありません。
雨や汗汚れにも強く洗濯もできるうえ、正絹よりも手ごろな値段で手に入ることが多いので、着物を着慣れた方にも重宝されています。
正絹以外の訪問着のTPOとは
訪問着は準礼装ですから、迷ったら正絹を選ぶのが間違いありません。
とはいえ、習い事や季節ごとの行事で頻繁に着る機会のある方は、たまにはいつもと違う素材の訪問着を試すのもステキなことです。
いただきものの訪問着が正絹ではないようだけれど、着られないのはもったいないと思っている方もいるでしょう。
正絹以外の訪問着の着用シーンと注意点をまとめました。
紬の訪問着は気軽なパーティーに向いている
紬の訪問着には、染めと織りの両方があります。
染めの訪問着は柄のない紬地に絵羽模様を描いたもの、織りの訪問着は絵羽模様になるように模様を織り込んだ紬で、技術的には織りのほうが高度です。
しかし着物の格は織りより染めが上とされますから、フォーマルなシーンでは染めのものを選ぶのが正解です。
紬の訪問着はオシャレ着
紬の織りの訪問着は、より趣味性の高いものと言えます。
紬は節のある絹糸から織られ、独特の風合いを楽しむ着物です。
もともとは出荷できない絹糸を使って庶民の衣類を織っていたもので、フォーマルなものではありませんでした。
しかし産地によってさまざまな特徴のある紬は人気も高く、特に日本三大紬と言われる結城紬・大島紬・牛首紬は高級品としても扱われます。
紬の訪問着は、振袖や留袖を着るような場ではふさわしくありません。
特に年配の方が集まる場では、相手を尊重していないと取られてしまうこともあります
洒落着としての印象も強い紬を訪問着で楽しむには、結婚式の二次会や婚約式などの身内のお祝いの席、観劇の席などが適しています。
紬は華やか過ぎず、洋装の方とご一緒するときにもなじみやすいものが多いのも特徴で、ちょっとしたパーティや特別な方とのおでかけにもぴったりです。
紬の訪問着は珍しいので、着物好きの集まりなど、趣味のあう人たちとの話題のタネにもなりますよ。
ポリエステルの訪問着はお稽古などに向いている
技術の発展によって、ものによってはまるで正絹のような美しさを誇るポリエステル。
扱いが簡単で、多少汚れても気にならないところがメリットです。
色柄も豊富なので、最初の1枚に選ぶ素材としてもおすすめです。
一方で、ポリエステルの着物は商品によって質に大きく差がでます。こだわりのある方の中には化学繊維を嫌がる向きもあるようです。
安価なポリエステルの生地は安っぽく見える
特に安価なものではぺらぺらした薄い生地や、一目でポリエステルとわかる着物もあります。
普段着として遊びに出かけるときにはそれでもかまいませんが、訪問着として着用するときには、やはりしっかりした生地のものを選びたいものです。
正式な場ではあまり手軽なものよりも、格式高く見える質感のものがよいでしょう。
ポリエステルの着物は静電気も気になる
ポリエステルは静電気が気になるという方もいます。
ポリエステルの襦袢にポリエステルの着物をあわせると、静電気は激しくなります。
静電気を防止するスプレーなどを気軽に使えるのも、ポリエステルの利点です。
素材の特徴を上手に利用して、心地よい着心地を目指しましょう。
ポリエステルの着物は扱いが簡単
扱いが簡単なポリエステルは、普段から着物を着る人にも、そうでない人にも便利な素材です。
お稽古事や天候が心配なときにはポリエステル、とっておきのときには正絹と使い分けるのも良いですね。
正絹以外の訪問着の着こなしのポイント
着物より帯の格を上げるのが良いとされる着物の着こなしですが、ポリエステルの着物に豪華絢爛な織りの帯はちょっと…と考える人もいるかもしれません。
小物と訪問着のバランスが取れていないと、見た目にもちぐはぐな印象を与えます。
正絹以外の素材の訪問着を着るときの、帯や小物合わせのポイントを紹介します。
訪問着に合わせる帯はTPOで使い分ける
帯は染めより、織りのものが格が上です。
訪問着には留袖にあわせるような正倉院文様や錦織などの格調高い帯が使われることもありますが、紬やポリエステルの場合はもう少し控えめな帯のほうが似合いそうです。
基本的には袋帯を、格調高い文様であれば名古屋帯でも良いでしょう。
パーティなどで洒落着として着る場合には、染めの帯でも大丈夫。
イブニングドレスが、正絹の訪問着に、織りの袋帯だとすると、セレモニースーツやカクテルドレスを着るような場面では、素材を問わない訪問着に、織りの袋帯、平服のシーンでは染めの名古屋帯も可という感覚でしょうか。
着物と着用シーンの雰囲気にあったものを選びましょう。
帯周りは正絹素材を使うと印象が良くなる
帯周りの小物も、基本的には帯と同じように選んで大丈夫です。
ただし、できれば素材は正絹のものがよいでしょう。
見える面積の小さい小物は特に、素材感が目立ちます。
正絹の着物のときと同じものをあわせると、全体の印象が良くなります。
足元は白がマナーでバックなどは淡い色で
フォーマルな場面では、白か淡い色の草履に白足袋がマナーです。
また、バッグも普段より華やかなものが好まれます。
訪問着の素材がカジュアルな場合でも、足元やバッグはフォーマルなものであわせましょう。
「雨が降りそうだからポリエステルの訪問着で」という場合には、替えの足袋も忘れずに。白く清潔な足袋は、礼節を表します。改まった場では、新しいものを用意しましょう。
まとめ
現代では、着物にもさまざまな素材のものが出回っています。
格についても、昔からの考え方が通用しなくないことがあります。
とはいえ、着物も衣類です。その場にふさわしい装いかどうかは、ケースバイケースということも少なくありません。
悩んだときには責任者の方に相談したり、昔ながらのしきたりに従ったりするのも賢い選択です。気心知れた集まりでは、遊び心のある着こなしも歓迎されます。
場所や相手のことをよく考え、最低限のルールはきちんと守ったうえで、素材の違う訪問着を楽しみましょう。