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記事 : 結城紬の産地や特徴とは?ユネスコ無形文化遺産に登録された結城紬の歴史や製作工程に迫る

シリーズ「紬」

結城紬の産地や特徴とは?ユネスコ無形文化遺産に登録された結城紬の歴史や製作工程に迫る

高級絹織物として数々の著名人に愛される結城紬。1977年には国の伝統的工芸品に、2010年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されました。

高価な着物というイメージのある結城紬ですが、「本場結城紬」とは別に、比較的安価な「結城紬」も出回っています。この2つの結城紬の違いはどこにあるのでしょうか。

今回は結城紬の歴史や種類、特徴、制作工程などをまとめました。

結城紬の産地と歴史

茨城県結城市
site:ibarakiguide.jp

結城紬は、日本最古の絹織物です。結城紬がはじめて歴史上に登場するのは奈良時代で、当時朝廷に献上されていた「絁 (あしぎぬ)」という布が、結城紬の原型です。

この「絁」はすべての紬の基でもありますが、さまざまに姿を変えたほかの紬とは違い、結城紬はその作り方を現代に伝えていると言われています。

結城市とその周辺で織られていたこの布はやがて「常陸紬 (ひたちつむぎ)」と呼ばれるようになり、質素で堅実な風合いが江戸の武士や商人に愛されました。

室町時代頃には、当時の領主だった結城氏の名から「結城紬」という呼称が定着したそうです。

時代が進み、江戸時代の終わりは、絣模様の結城紬が織られるようになります。

明治に入ると男性の洋装化が進むにつれて、結城紬は女性のおしゃれ着としても普及していきました。

時代を越えて受け継がれてきた結城紬は、現代ではスカーフなどの洋装小物にも利用されています。

結城紬の特徴

結城紬の特徴

結城紬の最大の特徴は、やわらかな手触りにあります。真綿を手で紡ぎ、糸に負担をかけない地機で織られる布はふんわりと空気を含み、軽く、暖かく仕上がります。

しかし店頭に並ぶ結城紬の反物を見たことがある人は、いかにも堅そうだと感じたかもしれません。結城紬は、反物として出荷されて時点では糊がついたままです。

高級品として店頭に並ぶ結城紬は買い手がつくまでにたくさんの人の手を通ることも珍しくありません。そのため、しっかりと糊をつけた状態でないと表面が毛羽だって痛んでしまう のです。

糊で固められた結城紬は、仕立てられるときに湯通しされ、本来の柔らかな風合いを取り戻します。

それでも完全には糊が落ちないので、たくさん着て、体になじませることで結城紬が「育って」いくのです。

結城紬は「結城三代」と言われ、母から娘に、そして孫へと受け継がれる着物です。そうして次の世代へ受け継がれるほどに、着物は味わい深くなっていきます。

かつて、糊をつけたままで仕立てられていたころには「最初は寝巻にしてやわらかくする」とか「まずは丁稚に着させてなじませる」といったこともされていました。時とともに育っていく着物の仕上がりを楽しむのも、結城紬の魅力のひとつです。

結城紬の製作工程

結城紬の製作工程

結城紬特有の風合いを出すため制作工程について、もう少し詳しく見ていきましょう。

「本場結城紬」の場合、繭を煮るところから仕立て前の湯通しまでの工程は、すべて職人たちの手作業で成り立ちます。

そのうち「糸つむぎ」「絣括り」「地機(じばた)織り」の3工程は1956年に国の重要無形文化財の指定を受けました 。

ここでは20以上の製作工程のうち、この3つの工程についてまとめました。

糸つむぎ

結城紬の糸つむぎ
真綿を手でつむぐ

繭を煮て、その糸を袋状に広げた真綿を「つくし」という糸巻きのような道具にかけ、細く、均等に糸を引き出す作業です。

指先で紡がれる糸には豊かな風合いが生まれます。糸によりをかけない「無撚糸」で織ることで、結城紬はたっぷり空気を含んだ布に仕上がります。こうした手つむぎの技術は、世界的にも珍しいそうです。

しかし手でつむぐ糸には、太さに個人差が出ます。繭から真綿を採り、良質な糸を紡ぎだせるようになるには「綿かけ8年、糸つむぎ3年」とも言われ、鍛錬と経験が必要です。

紡ぎ出した糸は「おぼけ」と呼ばれる桶に貯められ、1秤分を1ボッチと呼びます。1ボッチたまるまでには、7〜10日程度かかるそうです 。

1反の反物を織るには、7ボッチほどが必要です。糸をつむぐだけで、1、2か月はかかる計算です。

絣括り

結城紬の絣括り

絣模様とは、経糸か緯糸、あるいはその両方をあらかじめ染め分け、その組み合わせで織り上げた模様です。

「絣括り」とはその絣に使う紬糸に印をつけ、木綿の糸で括って防染する作業のことです。

絣の色数分、括りと染めを繰り返しますが、すべての糸を同じ力加減で括らないと美しい絣になりません。したがって1反分の「絣括り」は、すべて同じ職人が行います。

80亀甲だと160、200亀甲だと400箇所もこの作業を繰り返すそうで、この作業だけで3か月以上かかるそうです。絣が精巧になればなるほど、作業量は増えていきます。

地機織り

結城紬の地機織り

染め上がった紬糸は、地機で織り上げられます。これは1,500年もの間変わることなく伝承されている、もっとも原始的な織り機です。

地機は職人が体を織り機の中に組み込み、腰当に結び付けた経糸を腰の力で調整しながら布を織ります

紬糸は糊で強化されていますが、よりがないために切れやすく、微妙な力加減が必要になります。そのため、自分の体全体を使って糸の張りを加減できる地機が使用されるのです。

1反分の布を織り上げるのには1カ月、長いものでは1年かかることもあるそうです。

繭から1反の反物を作り上げるまでには、長い時間がかかります。また、何人もの職人とたくさんの繭が必要です。結城紬が高級品と呼ばれる所以は、その完成までにかかる膨大な労力とこまやかな作業、そして大勢の人の努力にあるのです。

「本場結城紬」と「結城紬」の違いと証紙

本場結城紬と結城紬

結城紬には「本場結城紬」と呼ばれるものと、「結城紬」とだけ呼ばれるものがあります。この2つは、反物についた証紙で区別することができます。

「結城紬」は手頃な価格がつくことが多いようですが、これらの違いはどこにあるのでしょうか。

「本場結城紬」の証紙は結マーク

本場結城紬の証紙
「結」マークの本場結城紬の証紙

「本場結城紬」の証紙には、「結」のマークがついています。

これは本場結城紬卸商協同組合が発行しているもので、「茨城県本場結城紬織物協同組合」と「栃木県本場結城紬織物協同組合」に加盟した業者が、検査に合格したことを示す「合格証」を発行された反物につけるマークです。

合格証には、その製法によって①地機で平織り②地機で縮織り③高機で平織り④高機で縮織り、の4種類があります。

結マークの反物は厳しい審査を通過したもので、たくさん生産することができません。そのぶん、価格も高くなります。

「結城紬」の証紙は紬マーク

いしげ結城紬の証紙
「紬」マークのいしげ結城紬の証紙

いっぽう「紬」のマークのついた証紙は茨城県結城郡織物協同組合が作った「いしげ結城紬」の証です。

これは製作工程を一部機械化することでコストを下げ、生産量を増やすことに成功した結城紬です。

「本場結城紬」と比べると多少風合いが異なりますが、真綿から紡いだ糸から成る柔らかな手触りが楽しめます。

生産量が安定しているため「本場結城紬」より低価格で流通することも特徴のひとつです。

「結城紬は高級である」という認識は、江戸時代からあったようです。

江戸の問屋から届いた値下げを求める手紙が、結城市に残されています 。

紬マークの「結城紬」はそうした「結城紬=高級品」のイメージを脱するべく生まれた、現代の結城紬なのです。

結城紬のまとめ

高級品の印象の強い結城紬ですが、さまざまな工夫によって、手ごろな価格でも楽しめるようになってきました。

色や柄も、現代的なものが増えてきました。結城紬は「とても手に入らない…」と諦めていた品から、「いつかは欲しい!」と憧れることのできる着物になりつつあります。

リサイクル着物でも結城紬は多く出回っています。誰かが大切に育ててきた結城紬は柔らかくなじみ、早くその風合いを楽しみたいという人にもぴったりです。

孫の代まで受け継がれる結城紬だからこそ、一生の1枚をじっくり探してみてくださいね。