着物のシミ抜き、汚れた時の応急処置とお手入れは?自宅で出来る着物の汚れとり
着物でのおでかけは、動作や作法が洋装時とは違うもの。
慣れない動きに、粗相してしまうこともあるかもしれません。大切な着物が汚れてしまったときは、慌てずに処置をすることが大切です。
着物を汚してしまったときは専門の業者に相談するのが基本ではありますが、ちょっとした汚れならお家のお手入れで落とすことができます。
今回は、自分でできる着物のシミや汚れの手入れについて見ていきましょう。
着物の汚れは「汚れの種類を見極める」ことが重要
着物が汚れてしまったときは、まず汚れの種類と程度を見極めることが大切です。
衣類の汚れには大きく分けて「水溶性の汚れ」「油溶性の汚れ」「不溶性の汚れ」があり、それぞれ落とし方が違います。
汚れの範囲がそれほど広くなく、ついてすぐの場合には、家でのお手入れでキレイにすることができるかもしれません。
ここでは着物につきやすい汚れや種類について、まとめました。
水溶性の汚れ
「水溶性の汚れ」は水に溶ける汚れで、一般的な衣類では洗濯機で洗剤を使って洗うことで落ちる汚れです。
- ジュースや果汁
- 紅茶やコーヒー
- 油の入っていないスープ類
- 醤油や油の入っていないタレなど
知らない間についていることも多く、着物生活をしていると、誰もが1度は経験する汚れでもあります。
汚れの中では比較的容易に落ちますが、絹は濡れると縮む性質がありますので、程度がひどい場合にはなるべく早く専門の業者に持ち込みましょう。
油溶性の汚れ
「油溶性の汚れ」は水に解けず、油に溶けるのが特徴です。洋服のクリーニングでは、ドライクリーニングで石油系洗剤を使用して落とします。
- マヨネーズや油の入ったドレッシング
- 口紅やファンデーション等の化粧品
- 油の入ったタレやソース等
- 分泌皮脂等
油は頑固なシミになりやすく、気がつかずに収納してしまうと、取り出したときには大きな汚れになってしまっていることも。
特に顔周りが触れる衿元は、ファンデーションの汚れが付きやすい場所です。
脱いだ後、お手入れする時によく確認しましょう。
不溶性の汚れ
「不溶性の汚れ」は、水にも油にも溶けません。泥はねやペンのインク等がこれに含まれます。
クリーニングに出してもなかなか落とせず、専用の「シミ抜きコース」などをお願いする場合もある汚れです。
軽いものなら自分で落とすことができますが、繊維の奥深くに入り込んでしまうとなかなか取れないのがこの汚れ。
無理に対処しようとすると、かえって着物を傷めてしまいます。
難しそうだと思ったら、やはり専門家にお任せしましょう。
着物についた汚れの落とし方
汚れを落とすには「早さ」が大切です。
汚してしまったときにすぐ応急処置をしておけば、後のお手入れもぐっと楽になります。
着物が汚れたときの応急処置と、それぞれの汚れの落とし方を見てみましょう。
汚れに気がついた時の応急処置
着物が汚れたら、まずは汚れの元となるものを取り除きましょう。
食べ物や飲み物の汚れであれば、着物にこぼれたものなどを乾いたティッシュやハンカチで吸い取ります。
固形物は、つまむようにして取り除きましょう。
このときに濡れたおしぼりなどを使うと、絹を傷めたり、汚れを広げたりする原因になります。
特に油溶性の汚れは水と混じると取れにくくなることも。
必ず乾いた布などで、そっと吸い取るようにして汚れを取ってください。
ただし「泥はね」は触ると汚れを広げてしまいます。できるだけ触らず、そのまま乾かしましょう。
水溶性の汚れの落とし方
水溶性の汚れは「ぬるま湯」と「タオル」を使って落とします。
絞りや刺繍などの繊細な技巧が使われた部分や、汚れの範囲が広い場合には専門の業者にお願いしましょう。
水溶性の汚れを落とす手順は、以下のとおりです。
①汚れの下にタオルを敷く
汚れている部分の下に、薄手のタオルを敷いておきます。
このタオルに汚れを移すので、よく見えるよう、色の薄いものがおすすめです。
②ぬるま湯で濡らしたタオルで汚れを叩く
もう1枚のタオルを40℃くらいのぬるま湯に浸し、きつく絞って汚れにあてます。
そのまま軽くトントンと叩くようにして、汚れを下のタオルに移しましょう。
普段着の着物であれば、薄めた石けんを使っても良いかもしれません。まずは目立たない場所で試してみてください。
③乾いたタオルで水分を取る
汚れが落ちたら、濡れた部分に乾いたタオルをあてて水分を吸い取ります。
このとき、こすってはいけません。優しく叩くようにしてください。
④干す
着物ハンガーに吊るし、陰干しします。生乾きの状態はカビの原因になります。
しっかり乾燥させてから、きれいにたたんでしまいましょう。
油溶性の汚れの落とし方
油溶性の汚れは「ベンジン」を使って落とします。
ベンジンは、吸い込むと人体に悪影響を及ばすので部屋の窓を開け、マスクなどをしてから作業に取り掛かりましょう。
油溶性の汚れを落とす手順は、以下のとおりです。
①汚れの下にタオルを置く
水溶性の汚れのときと同じように、着物の下に薄手のタオルを敷いておきます。
②タオルにベンジンをしみ込ませ、汚れを叩く
クリーニング用のベンジンをしみ込ませたタオルで、汚れの上をトントンと叩きます。
タオルは常にきれいな部分が着物にあたるようにし、汚れ移りを防ぎましょう。
③輪郭をぼかす
汚れがきれいになったら、新しいベンジンをタオルのきれいな部分に染みこませ、着物の濡れたように見える部分を軽く叩いて輪郭をぼかしておきます。
輪郭がはっきりしたまま乾かすと、輪ジミになってしまうからです。
丁寧に作業することがキレイな仕上がりのコツです。
④干す
最後に着物ハンガーに着物を吊るして陰干ししましょう。
汚れが落とせないときは専門家へ
着物のお手入れが難しいのは「素材」が理由のひとつ。
絹は水に濡れただけで縮んだり、輪ジミになったりしてしまいます。
「自分で試してみたけれど汚れが落ちない」ときは、専門家に相談してみましょう。
その際は自分で行った処置についても伝えてください。
専門家のクリーニングには「洗い張り」と「丸洗い」の2種類があります。
洗い張りは着物をほどいて反物の形にして洗う方法で、丸洗いはそのままの形でドライクリーニングを行います。
業者に着物を持って行けば、汚れの種類や程度によって、最適な方法を提案してくれるはずです。
とはいえ着物の主な素材である絹はとてもデリケートな生地です。
自分で汚れを落とそうとして専門家でも元に戻せない状態にしてしまうことがあります。
以下のような場合は無理をせず、すぐにクリーニング業者に依頼してください。
- 時間が経った汚れや古いシミ
- 赤ワインなどの濃い色素の汚れ
- 複数の汚れが混じっている場合
着物のお手入れは「無理をしないこと」が肝心です。
まずは木綿や麻などの普段着の着物から試してみて、慣れてきたら難しい素材に挑戦するようにすると良いですよ。
よくある汚れの対処
お祝いの席や会食など、着物を着る機会には食事をすることも多いものです。
気をつけているつもりでも食べ物や飲み物をこぼしてしまったり、テーブルの汚れに袖が触れてしまったりすることはよくあります。
汚れは、水溶性か油溶性かで適切な対処法が違います。
食べ物や飲み物の汚れが着物についてしまったときの対処法を見ていきましょう。
【水溶性】飲み物や醤油など
コーヒーや紅茶、ジュースなどの飲み物や醤油、ソースなどの調味料、お味噌汁などの汁物の汚れは、多くが水溶性です。
液体汚れは、繊維にしみ込むと取りづらくなります。水滴として着物の上に落ちただけなら、そのまま乾いた布に吸わせて取り除きましょう。
液体の中でも、赤ワインや抹茶は頑固なシミになりやすい飲み物です。
こうした汚れは、強くこすったり濡らしたりすると広がってしまうことがあります。
布に吸わせきれなかった部分は、触らずにそのままクリーニングに出してください。
普段用の着物や襦袢など、多少縮んでもかまわない着物であれば、濡らしてきつく絞ったタオルで軽く叩いておくという方法も。
正絹の着物も手のひらで挟み、体温でゆっくりと乾かすようにすると、縮まずに済むことがあります。
ただし同じ液体でも、牛乳や油を含んだタレなどは油溶性の汚れです。
水を混ぜると、プロでも落とせない状態になってしまうこともあります。
「液体化どうか」ではなく「水か油か」で判断をしてください。
【油溶性】マヨネーズ・バター・チョコレートなど
ぽてっとした油もののシミは、水溶性のものよりも落とすのが難しい汚れです。
着物の上に落ちたときにはティッシュなどでつまむように取り除き、そのあとは専門家にお任せしたほうが安全です。
ちょっとした汚れであれば、脱いだあと、ベンジンを使って落とすこともできます。
薄手のタオルの上に染みになった部分を広げ、きれいなタオルでトントンと叩くように汚れを移しましょう。
汚れが落ちたら輪ジミにならないように、輪郭をぼかすようにベンジンを叩いておきます。
いずれの場合も無理をしないことが大切です。まずは目立たないところで試してみてくださいね。
その他の食品
洋服の場合、汚れはお湯のほうが良く落ちます。
しかし着物の場合、温度の高いお湯を使うと絹を傷めることがあります。
特に卵などのタンパク質を含んだ汚れは熱で固まるので、熱湯を使うのは厳禁です。
必ず水かぬるま湯で濡らした布などを使い、表面の汚れをすくい取るように汚れを取り除きましょう。
道に落ちているガムなどに裾が触れてしまった場合は、無理にはがそうとするとよけいに強くくっついてしまいます。
ガムは、氷で冷やすと簡単に剥がれます。着物の裏から袋に入れた氷をあて、ガムが固まったら指ではがしましょう。
そのあとは薄めた中性洗剤をつけた布で叩くときれいになりますよ。
水や洗剤で濡れた着物は、着物ハンガーにかけて良く乾かしましょう。
化粧品の汚れ
着物の汚れのうち、食べ物と並んで多いのが化粧品の汚れです。
首周りのファンデーションは、衿につくと白く残ります。日焼け止めやハンドクリームも要注意です。
また、化粧のあとで着物を着る場合には、着付けの時に肌が触れて汚れを移してしまうことも。
満員電車でほかの人の口紅がこすれてしまう、というケースもあるようです。
化粧品でついた汚れの多くは油溶性です。水には溶けないので水洗いでは落ちません。
食べ物のときと同じようにシミ抜きにはベンジンを使います。
洗える素材の半衿や着物についたときには、薄めた中性洗剤を使う方法もあります。
洗濯機を使うときはネットに入れ、脱水を短めにするのがポイントです。
干すときにはシワになった部分を手ではさみ「手のし」を行うときれいに乾きます。
泥汚れ(不溶性)
雨の日の道を歩くと、泥跳ねしてしまうことがあります。
裾を泥汚れから守るためには、雨コートの下で裾をまくり、ひもやクリップで腰の位置に固定しておくことがポイントです。
それでも泥汚れがついてしまった部分は、できるだけ触らず、そのまま乾かしてしまいましょう。
泥汚れの正体は細かくなった砂の粒です。
水にも油にも溶けない「不溶性」というタイプの汚れで、洗濯で落とすのは難しいのが特徴です。
泥汚れが渇いたあと、歯ブラシなどを一方方向に軽く動かして、汚れを繊維の隙間から掻きだしましょう。
墨汁
泥汚れと同じく、墨汁も不溶性の汚れです。
墨汁の細かな墨の粒子が繊維の奥に入り込むとなかなか落ちず、クリーニングに出しても取れないことがあります。
まずは水滴になった部分を布やティシュで吸い取り、その後は触らずに、できるだけ早くクリーニングに出しましょう。
完全に乾く前なら、墨汁のシミも落ちるかもしれません。
汗
汗汚れは、着物を着ているときにはなかなか対処できません。
基本的には脱いだ後、しっかり干すことで汗を飛ばします。
その際、霧吹きなどで水を吹き、乾いたタオルを押し当てるようにして水分を取っておくと、汗の成分も取れやすくなります。
ただしこの方法も、礼装や細かな技巧部分には使えません。
飽くまで普段着用の「いつもの1着」用の処置です。
夏の着物は、汗を吸ったまま収納すると黄ばんでしまいます。
着用後は良く干し、特に正絹の薄物は1度でも着たらシーズンの終わりにクリーニングに出すことをおすすめします。
血液
指先の怪我や歩きなれない草履の靴擦れなどで血が出た場合、まずは着物につけないようにすることが大切です。
小さな怪我でもばんそうこうなど貼って、血がつかない工夫をしましょう。
着物に血がついてしまったときは、乾いた布やティッシュでできるだけ吸い取ります。
このとき、着物に押し付けてしまわないようにするのがコツです。優しく触れるように、汚れを移します。
ある程度血液がしみ込んでしまったときは、きつくしぼった濡れタオルを使って応急処置をします。
着物の下に乾いたタオルを敷き、上から濡れタオルでトントンと叩いて汚れを落としていきます。
血液は液体ですが、タンパク質を含んでいます。
こうした汚れは熱を加えると凝固する性質があるので、濡れタオル等を使う場合は必ず冷たいもので行いましょう。
血液汚れは、時間がたつにつれて落ちにくくなります。
いつついたかわからない汚れの場合は自分で対処せず、専門の業者に相談しましょう。
まとめ
一口に「汚れ」といっても、その原因はさまざま。
プロは、それぞれの汚れにあった落とし方で着物をクリーニングしてくれます。
古いから、と諦めていたリサイクル着物の汚れが驚くほどきれいになることも!
自分でできるのは飽くまで応急処置ではありますが、汚れの種類や対処の基本を押さえておけば、ちょっとした汚れは怖くありません。
「汚すのが怖いから」と着物をしまいこんでいてはもったいない!
正しい対処法を身につけて、普段の生活の中でも、どんどん着物を着てくださいね。