着物のシミ・汚れが付いたときの応急処置|正絹はまず触らない
着物にシミや汚れが付いたとき、最初にすることは落とそうとしないことです。とくに正絹、刺繍、金銀箔、絞り、染め分け、アンティークの着物は、水分、摩擦、洗剤、熱によって輪ジミ、色泣き、縮み、箔の傷みが広がることがあります。
まずは汚れた場所をこすらず、写真を撮り、何が・いつ・どのくらい付いたかを記録してください。そのうえで、着物を扱うクリーニング店や悉皆(しっかい)店へ早めに相談するのが、もっとも失敗を減らす方法です。

着物に汚れが付いたら、まずすること
1. こすらない・広げない
汚れを指、ティッシュ、ウェットシートでこすると、繊維の奥へ押し込み、範囲を広げるおそれがあります。濡れている場合でも、まずは擦らずに扱います。
2. 汚れと着物全体を撮影する
近接写真だけでなく、着物のどの位置に付いたかが分かる全体写真も残します。クリーニング店へ相談するとき、汚れの場所、広がり、付着直後の状態を伝えやすくなります。
3. 付いたものと時刻をメモする
飲み物、油、化粧品、泥、インク、血液など、何が付いたかで必要な処置は変わります。分からない場合は「不明」と伝えれば十分です。自己判断で洗剤や溶剤を重ねないでください。
4. 早めに専門店へ相談する
汚れの原因、着物の素材、加工、経過時間によって対応は変わります。相談時は、着物の写真、汚れの写真、付着したもの、いつ付いたかを伝えます。クリーニング前後の状態を写真で残し、早めに確認することは、国民生活センターも案内しています。

汚れを広げず、位置と状態を記録して相談することが、次の判断を助けます。
自宅で処置を始めないほうがよい着物
次に当てはまる場合は、応急処置も最小限にとどめ、専門店へ相談してください。
- 正絹である、または素材が分からない
- 刺繍、金銀箔、金銀糸、絞り、ぼかし、染め分けがある
- 白地、淡色、礼装、作家物、アンティークである
- 汚れが広い、時間がたっている、何が付いたか分からない
- 血液、カビ、インク、化粧品、油、香水、薬品が付いた
- 裏地まで染みた、色がにじんだ、湿った状態が続いている
洗濯表示があるポリエステルの着物でも、刺繍や箔があれば別途注意が必要です。「洗える」と書かれていても、部分的なシミ抜きが安全とは限りません。
汚れ別に知っておきたいこと
飲み物・食べ物
お茶、コーヒー、ジュース、汁物、調味料は、水分だけでなく糖分、色素、油分を含む場合があります。熱いおしぼりや大量の水で流すと、汚れを広げたり輪ジミを作ったりすることがあります。正絹は特に、自己処置をせず専門店へ相談してください。
化粧品・日焼け止め・皮脂
口紅、ファンデーション、日焼け止めは油分や顔料を含みます。クレンジング、アルコール、ベンジン、除光液などを使うと、染料や加工を傷めるおそれがあります。衿元や袖口は汚れが広がりやすいため、擦らないことが重要です。
泥はね・ほこり
泥は水を加えると繊維に入り込みやすくなります。正絹や素材不明の着物は、濡らさず、乾いた状態のまま専門店へ相談してください。洗濯表示で家庭洗濯が明確に認められた普段着でも、まずは完全に乾いてから、表面の土を落とせるかを表示と取扱説明に従って確認します。
血液・体液
血液は時間と熱で落としにくくなることがありますが、正絹の生地を濡らして処置することにもリスクがあります。汚れに直接触れず、早めに専門店へ相談してください。けがをしている場合は、まずご自身の手当てを優先しましょう。
雨・水滴・汗
雨や水滴は、汚れが見えなくても輪ジミや色泣きの原因になることがあります。ドライヤー、アイロン、直射日光で急いで乾かすことは避けます。汗をかいた着物も、湿ったまま収納せず、風通しのよい日陰で十分に湿気を逃がしてから、状態を確認します。
実物で学ぶ
中古の着物では、素材表示や過去の手入れ履歴が残っていないことがあります。見た目が絹らしくても、裏地・表地・刺繍糸・箔の素材が同じとは限りません。糸千花で確認してきた着物でも、細かな加工があるものほど、部分的な自己処置で見た目が変わるリスクがあります。
「少しだけだから」と思える汚れほど、輪ジミや色差が後から目立つことがあります。迷ったときは、落とすことより状態を悪化させないことを優先してください。
糸千花ワンポイント
専門店へ預ける前に、写真とメモを残しておくと、汚れの原因や位置を共有しやすくなります。宅配で依頼する場合も、気になる箇所を撮影し、依頼内容に記すと行き違いを減らせます。
見分けるときのチェックポイント
- 表地だけでなく、裏地まで湿っていないか
- 刺繍、箔、金銀糸、絞りなど傷みやすい加工がないか
- 汚れが付いた直後か、時間がたっているか
- 何が付いたかを説明できるか
- 洗濯表示と、着物そのものの状態に矛盾がないか
よくある勘違い
水でたたけば安全に落とせる?
いいえ。正絹は水分で輪ジミや縮みが生じることがあり、染料がにじむ場合もあります。濡れタオルでたたく方法も、素材や染め、加工が分からない着物には勧められません。
ティッシュやウェットシートで拭けば大丈夫?
いいえ。摩擦で汚れが広がり、ウェットシートの成分が残ることもあります。まずはこすらず、汚れの状態を記録してください。
家庭洗濯できるポリエステルなら、何でも自分で落とせる?
いいえ。洗濯表示に従えるか、刺繍や箔などの加工がないか、汚れの種類は何かを確認する必要があります。部分的なシミ抜きは、全体洗いとは別のリスクがあります。
今日覚えるポイント
- 正絹や加工のある着物は、まず落とそうとしない
- こすらない、濡らしすぎない、熱を加えない
- 汚れの写真、位置、付着物、時刻を記録する
- 迷ったら、着物を扱う専門店へ早めに相談する
よくある質問
外出先で飲み物をこぼしたら、どうすればよいですか?
こすらず、汚れを広げないようにし、落ち着いて写真を撮ります。正絹や礼装は自己処置をせず、帰宅後または早めに専門店へ相談してください。
すぐクリーニングに出せないときは?
濡れたまま密閉せず、直射日光や熱を避けて保管します。汚れのある部分を折り込んだり、強く押さえたりしないようにし、できるだけ早く相談先を探してください。
クリーニングに出す前に写真を撮る理由は?
汚れの位置や状態を共有しやすくなり、受け渡し時の確認にも役立つためです。国民生活センターも、シミの部分を撮影し早めにクリーニング店へ申し出ることを案内しています。
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主な参考資料
糸千花の和装事典について
糸千花は、これまでに10万点以上の着物・帯・和装小物を確認してきました。和装事典では、その実物から得た知見をもとに、初心者の方が着物を安心して楽しむための手掛かりを紹介します。中古品では素材表示や手入れ履歴が残らないこともあるため、分からないことを無理に断定せず、状態に合わせて慎重に判断します。















































