着物や帯の臭いを取る方法「樟脳」編 ~着物ケアシリーズ7〜
大切な着物や帯を虫から守ってくれる防虫剤。
着物の長期保管のために大切なアイテムのひとつですが、気になるのは臭いです。
特にリサイクルやいただきものの古い着物には、独特の臭いがすることも。それは樟脳(しょうのう)の臭いかもしれません。
「臭いが強い」という印象も強い樟脳ですが、実は自然由来の、安全な防虫剤でもあるんです。
今回は樟脳や、防虫剤の臭いの取り方について紹介します。
樟脳の臭いを取るには

樟脳は天然由来の成分からできています。「臭いがする」と思っても、それほど苦労なく取れることがほとんどです。
ただし、使用法を誤った場合や長く一緒に保管されていた着物や帯は、やはりそれだけ臭いもきつく感じます。
基本の臭い取りのお手入れを、いつもより長く試してみてください。
着物や帯についた、樟脳の臭いを取る方法を見ていきましょう。
着物や帯を陰干しする

着物や帯の臭いは、陰干しして風を通すことで落とすことができます。まずは着物ハンガーに吊るし、風通しの良い室内に干しておきましょう。
着物や帯の干し方は以前の「着物のシワを取る方法~干す編〜」に記載をしておりますので、ご参考ください。

着物の干し方のポイント
収納場所から取り出した着物や帯は1日から3日は干しておくのがおすすめです。着用予定が決まっている場合は、早めにお手入れを始めてくださいね。
臭いが強く染みついている場合は、夜のうちに軒下に吊るしておきましょう。夜中に着物や帯が空気中の水分を吸って、それを吐き出すときに臭いも一緒に落ちてくれます。
ただし、雨の日や湿度の高い日は避けてください。
お茶の葉を使う

陰干ししても臭いが取れないときや、着用予定が特にないときは、お茶の葉を使った方法も有効です。
フライパンで茶色くなるまで乾煎りしたお茶の葉を和紙や半紙に包み、着物の上に置いておきます。
お茶の葉が直接着物に触れないようにするのがポイント。お茶の葉が触れると、色が着物に移ってしまいます。
お茶の葉は臭い取りとして、昔から利用されてきました。
樟脳と同じく天然由来の成分なので、体に優しく、エコなのも嬉しいところです。
置き型の消臭剤を使う

着物や帯を干す場所がない!というときには、置き型の消臭剤を使ってみましょう。
大き目のゴミ袋の中にたたんだ帯や着物を入れ、直接触れない位置に置き型の消臭剤を置いて袋を閉じます。
閉じた口は布テープで密封し、空気が漏れないようにしておきましょう。
そのまま数日間、置いておきます。臭いが残っている場合はもう一度封をして、さらに数日置きます。
このときの消臭剤は、必ず無香料のものを使用してくださいね。
さらに臭いがひどいときには…

基本のお手入れで臭いが取れないときには、クリーニングを行いましょう。
素材によっては自宅で洗えるものもありますが、不安に感じたら専門の業者にお願いするのが安全です。
特に帯を洗濯するときは、慎重に判断しましょう。
ここでは着物や帯の洗濯について、まとめました。
自宅で洗濯する

麻や木綿の着物は、自宅で洗えます。
お洒落着洗いと同じように、ネットを使ったり、手洗いしたりして優しく扱うのがコツです。脱水は短めに行いましょう。
また、正絹でも着古した襦袢や普段用の紬は自分で洗う、という人もいるようです。
濡らした絹は乾く時に縮みますので、洗濯する前に丈を測り、生乾きのうちにアイロンなどを使って伸ばしておきます。
まずは端切れや、普段着用の着物で試してみましょう。
専門の業者に依頼する

着物の洗濯には「丸洗い」や「洗い張り」があります。
このうち、水を通すのは「洗い張り」です。
「丸洗い」は、いわゆるドライクリーニングのこと。汚れの程度や種類によって使い分けます。
基本的に、汚れは同じ種類の溶液に溶けます。
油汚れにはドライクリーニング、水性汚れには水洗いが有効です。
また、臭い落としのためのコースを設定している業者さんもあります。
とある着物専門のクリーニング屋さんに聞いたことがあるのですが「丸洗い」1回程度では殆ど汚れも臭いも落ちないそうです。
クリーニングに出すときは臭いの元が樟脳であることを告げ、適切な方法を相談してみましょう。
そもそも「樟脳」とは?

樟脳は、日本で昔から使われてきました。
防虫剤としても普及していますが、「カンフル」として医薬品に用いられたり、アロマオイルの原料にされたりします。
無色半透明の結晶で、水に溶けず、アルコールなどの有機溶媒には溶ける性質を持ちます。
合成樹脂としても使われ、ピンポン玉の原料にもなっています。
樟脳の特徴は、独特の強い香りです。
香料にもなるその香りを虫が嫌うため、防虫剤として一般家庭で愛用されてきました。
近年、天然素材から成る樟脳は、改めて注目されてもいるようです。
一方で天然由来の樟脳は生産量が減り、合成樟脳も利用が広まっています。
昭和の押し入れにおなじみのあの香りも、貴重なものになりつつあるのかもしれません。
樟脳の原料はクスノキ

樟脳の原料は、クスノキです。
クスノキは温かい地方にだけ生息し、日本では西南部一帯でのみ栽培されています。
世界的にも珍しい材木で、江戸時代には金・銀に次ぐ輸出品として重宝されていました。
樟脳は、クスノキを細かく砕き、蒸し器で蒸した際に発生する水蒸気から取り出される成分です。
原料は水とクスノキのみ。蒸す際の燃料も、樟脳を取り出した後のクスノキです。
天然由来であるだけでなく、生産時の無駄な廃棄物が少ない樟脳は、エコな素材としても見直されています。
樟脳は扱いに注意が必要

昔から使われているエコで体に優しい防虫剤、樟脳。でも、やっぱり気になるのは臭いです。
リサイクルやいただきものの着物や帯には、樟脳の臭いが染みついてしまっているものも。
これから樟脳を使ってみようというときにも、臭いが心配ですよね。
実は樟脳には、臭い以外にも気を付けてほしい注意点があります。
臭い以外に知っておきたい、樟脳の3つの注意点を確認しましょう。
①燃えやすい
樟脳には、燃えやすいという性質があります。
火の側に置いたり、高温になる場所に放置したりすると危険です。
樟脳を取り扱う際には、十分注意しましょう。
②飲み込むと有害
臭いは無害ですが、樟脳を飲み込むと人体に悪影響をもたらします。
特に小さなお子さんがいる家庭では、誤って口に入れることのないよう、破れにくい袋に入れるなどの工夫をしてください。
③揮発性がある
樟脳には、揮発性があります。
使わずに長期保存して置く際にうっかり口が開いていると、そのまま空気中に漏れ出して中身がなくなってしまうことも。
使わないときにはしっかり口を閉じ、密封できる容器に入れて保管してください。
樟脳以外の防虫剤も臭いの原因になる
着物や帯の保管には、防虫剤が必須アイテム。
しかし、臭いが発生するのは樟脳だけではありません。
防虫剤は、殺虫効果のあるガスを出すことで虫の害を防ぎます。
これらのガスにも、臭いがついていることもあるのです。
また、こうしたガスは人体にも有害です。
さらに異なる種類のガスが混ざると、着物や帯の変色や傷みの原因にもなります。
樟脳以外の防虫剤を使うときも扱いには十分注意し、臭いや変色の原因とならないよう気を付けましょう。
まとめ

いつも快適に、気分良く着物を楽しむには、適切なお手入れが必要不可欠です。
長く愛されてきたリサイクルの着物は、それだけ多くの人が、いろいろな方法でお手入れをしています。
その方法も、時代によってさまざま。
虫を防いでくれる重要な防虫剤でも、強すぎる臭いは着物を傷めます。
樟脳をはじめとする昔からのお手入れ方法も、時代が重なることで臭いの原因になるのです。
昔は日常の一部だった樟脳の臭いも、現代ではちょっとレトロなイメージです。
きちんとお手入れをして臭いを取り、気持ちの良い着物生活を楽しみましょう。