自分でできる着物のシワの取り方1「干す」編 ~着物ケアシリーズ5~
洋服と違って、基本的には干したままでの収納はしない着物。そのぶん、収納時にシワがつきやすいのが難点です。
紐や帯で支えるので、着用時のシワも気になります。
普段はあまり着物を着ない人にとっても、頻繁に着る機会がある人にとっても、着物のシワは悩みのタネです。
干したりアイロンを使ったりして上手にシワを取る人もいますが、大切な着物のお手入れに失敗はしたくないですよね。
今回は自分でできるシワのお手入れのうち、「干し方」と「しまい方」をまとめました。
着物のシワを取る最初の方法は「干す」こと
着物のお手入れに関しては「難しい作業や繊細な素材の扱いは専門家へ」が大前提。
取れにくいシミやシワ、刺繍や絞りの入った着物や礼服など大切な着物のお手入れは、まずは専門家に相談しましょう。
いっぽう、普段の着物のシワや、着用前のたたみジワを整えておきたい場合には、自宅でのお手入れが可能です。
着物のシワを取るには、まずは「干す」ことから試してみましょう。
特に脱いだ直後のシワであれば、体温や汗が抜けるのと一緒に着物自体の重さで繊維が伸びてくれます。
また、絹などの天然素材は、空気や湿気を吸ったり吐いたりする過程でふっくらとした風合いを取り戻します。
そのあとはきちんとたたんで収納すれば、次に着るときにまできれいな状態を保つことができますよ。
着物のシワを取る「干し方」のポイント
シワが気になる時以外にも、着物を脱いだら、まずハンガーに吊るして干すのが最初のお手入れです。
ヤケ防止の為にも、直射日光や紫外線を発生させる蛍光灯の直下など、強い光の当たらない風通しの良い屋内で、ひと晩ほど干しておきましょう。
もしシワが残っている場合には、そのまま陰干しを続けます。
シワを上手に取るための、干し方のコツをまとめました。
① 着物ハンガーを使って着物を干す
洋装用のハンガーは、肩がなだらかに下がっています。
肩の部分に跡がつかないので洋服には適した形状ですが、着物は平面に縫い合わせているので、まっすぐに整えておかないとシワになってしまいます。
着物ハンガーは、両腕を伸ばすと1本の棒の状態になります。
そこに袖を通しておくので、着物本来の形を保ったままで干すことができるのです。
また着物は、反物の形をそのまま縫い合わせてできています。
基本的には直線でできているので、上から下へまっすぐに吊るしておくと、布の重みで下の方向へ負荷がかかります。
着用時のシワの多くは腰回りや帯の付近に、横方向へかけられた力でできるものです。
着物ハンガーを使って縦に吊るしておくことでこうした横へのシワが伸ばされ、きれいな状態に戻ります。
② 着物を吊るした後に手でシワを伸ばす
着物ハンガーに吊るした着物は、まずシワの状態を良く確認しましょう。
特に深いシワが入っている箇所には、両手で挟むようにしてゆっくり押す「手のし」を行います。
この際、手についた脂や汚れで、着物を汚してしまうことがあるので、素手で着物に触るのはおすすめしません。
薄手の綿手袋をするか、きれいに洗った手で着物を扱いましょう。
なお、手のしを行うときには繊維を傷める原因になるので着物をこすってはいけません。
手のひらでアイロンをかけるように挟み、体温を移すようにゆっくりと押し続けることで、シワが整います。
そのあとは良く干して、手のしした部分に風を通しましょう。
この手のしの方法は、木綿や麻などの着物を自宅で洗濯したときにも有効です。
タオルに挟んで軽く水分を取ったあと、着物ハンガーにかけて吊るし、手のしで全体のシワを伸ばしていきます。
あとはそのまま乾かせば、すっきりきれいに仕上がりますよ。
③ 着物を干す時間はいつもより長めに
普段のお手入れでは1晩干しておけば十分ですが、シワの改善を目的にしているときは干す時間を長めに取ります。
着用時のシワは1日、たたみジワは2日から3日程度が目安です。それでもシワが取れない場合は、そのまましばらく吊るしておきます。
着用予定の日が決まっている場合は、はやめにお手入れを始めましょう。
④ 着物を干す時は光によるヤケに注意
長時間着物を干すときに注意したいのは、光です。着物は電灯の灯りでも焼けてしまうことがあります。
紫外線を発するような電灯や蛍光灯などは特に注意が必要です。
日光のあたらない場所だからと油断していると、電灯や蛍光灯で変色してしまうかもしれません。
1日程度ならそれほど気にすることはありませんが、ウォークインクローゼット等で着物ハンガーに吊るし、シワ取りを兼ねて長期間保管しようと考えるときには、電灯が直接あたらないように工夫しましょう。
着物のシワを作らないためには「しまい方」が大事!
シワを取り、きれいな状態に戻った着物も、きちんと収納しておかないと変なところにシワがついてしまいます。
これが「たたみジワ」です。
ついてすぐにお手入れできる着用時のシワと比べ、長い時間収納されていたことでできるたたみジワはなかなか取ることができません。
ここでは、たたみジワを作らないためのコツを確認しましょう。
まずは着物を丁寧にたたむ
たたみジワを減らすには、まずはきれいにたたむことがなによりも大切です。
仕立てたばかりの着物には、正しい折り目がついています。
この折り目は、取ってはいけない大切な目印です。
手のしやアイロンでお手入れするときにも、この線が消えないように注意してください。
着物をたたむときには、この折り線に沿って重ねます。
着物は1反の反物からできています。身頃や袖がおなじ幅で作られているので、折り目や縫い目のとおりに重ねていけばはみ出すこともなく、きちんと収まるはずです。
どこかが飛び出していたり、折れたりしたままだとたたみジワの原因になるので、着物は丁寧にたたみ、たとう紙に入れて保管しましょう。
着物を重ねすぎない
きちんとたたんだ着物も、引き出しの中で何枚も重ねてしまうとやはりシワの原因になります。
正絹の着物の重量は、ものによっては1kg以上です。
それが何枚も重なると、下になる着物ほど、大きな負荷がかかった状態になります。
その状態で保管していると、つぶれた部分がシワになってしまうのです。
着物をしまうときには引き出しの上部に数cmの空間ができる程度にとどめ、大切な着物は上に重ねるようにしましょう。
きれいな折り線は着付け姿も美しくする
折り線を美しく保つことの効果は、シワを防ぐことだけではありません。
正しい折り目のついた着物は衣紋も抜きやすく、体にぴたっと寄り添って着姿を整えてくれます。
着物のたたみ方は合理的にできており、袖や裾の大切な柄は折らず、縫い目や着方にあわせてたたむことで、広げたときにもきれいに見えるよう考えられているのです。
きれいな着物は、きれいな折り目から。
新しい着物が手元に届いたら、まずはその折り目やたたみ方を良く観察してみてください。先人たちの知恵に、改めて感心するはずですよ。
まとめ
「着るものだから、シワは仕方ない」と諦めている人もいるかもしれません。
頻繁に洗濯やアイロンがけをしない着物は、たしかにシワができやすいものです。
しかしそれは、もともと着物にはきれいな状態を保つための性能が備わっているということでもあります。
リサイクルで買った着物もいただきものの古い着物も、きちんとお手入れすることでシワを整えることができます。
シワになるのが怖くて着られなかったあの着物にも、もっともっと袖を通してあげてくださいね。